社会のため、未来のために活躍する「若い力」に注目し、そのチャレンジを紹介するコーナー「YOUTH CHALLENGE」。今回は、「岡山県立興陽高等学校」(以下、興陽高校)が取り組む、宅配弁当ボランティアについてお話をうかがいました。
なお、内容は取材当時のものです。
2017年12月13日(水曜日)朝。調理実習室に、ずらりとお弁当が並んでいます。
おこわ、煮物、ごま和え、グラタン、栗ようかん…多彩な10品が入ったこれらのお弁当は、興陽高校の家政科食物科学類型で学ぶ3年生19名が、前日から準備して作り上げたものです。
約70食を作る
年に一度の宅配弁当ボランティアは、24年の歴史を持つ伝統の取り組みです。地域とのつながりを深めつつ、地域を支えてきた高齢者に恩返しをしようと、1994年にスタートしました。
民生委員さんご協力のもと、学校がある藤田地区に単身で暮らす80歳以上の方にハガキを送り、希望があったお宅を訪問。玄関先でお天気や体調等のお話をしながら、お弁当を手渡します。
「楽しみに待ってくれる方をお待たせできない」と緊迫した雰囲気がただようなか、生徒たちは手際よく作業を進め、お弁当は予定より早く完成しました。
手際よく調理
宅配弁当に向けた準備は、3年生になる前の春休み、藤田地区の特産品を調べるところから始まります。故郷の味について学んだ後、夏休みを利用して高齢者が好む料理について、本やインターネット、身近な高齢者へのヒアリングでリサーチ。自分とは年齢も味覚も異なる高齢者向けのメニューを考えるのは大変ですが、宅配弁当作りのリーダー・Mさんを中心に協議を重ね、お弁当に入れる料理を決定していきます。
今回のテーマは、「Sun~彩り~」。彩り豊かなお弁当で、晴れやかな気持ちになってほしいという思いを込めて、10品を選定しました。
完成したお弁当「Sun~彩り~」
「えびれんこんの卯の花揚げ」は、藤田の特産品であるレンコンを楽しんでいただく料理。煮物やごま和えは、高齢者にとって親しみやすい味を意識しました。反対に、「さけのチーズグラタン」「白菜と鶏のミルク煮」は、ひとり暮らしの高齢者は食べる機会が少ないだろうとメニューに取り入れたそうです。
完成にいたるまで、何度も試作を重ねました。一品一品の食べごたえを意識すると、どうしても全体の塩分濃度が上がってしまいがち。誰もが安心して食べられるヘルシーなお弁当になるよう、塩分量を測定し、細かい調整を繰り返したといいます。
「お弁当はお店で簡単に買うことができる時代ですが、食べる楽しみをお届けしたいという思いで、『ひと手間』を加えました」というMさん。にんじんや里芋は飾り切りし、玉子焼きは巻きすでヒョウタン型に。かぼちゃは裏ごししてなめらかにしました。
また、割り箸を入れる袋やメニュー表も、華やかさを意識して手作り。おしながきの横には、手書きのメッセージも添えました。
おしながきも手作り
受け取る方の気持ちを考え、心を込めて作ったお弁当。ドキドキしながら、いよいよ高齢者のお宅に届けます。
先生・民生委員・生徒2名程度のグループに分かれ、それぞれ5軒から6軒を訪問。恒例行事とあって、お昼を楽しみに待ちわびている方もいらっしゃいます。
今回初めてお弁当を受け取ったという男性は、「こんな立派なお弁当をいただいてありがたい」と笑顔を見せていました。
お弁当を手渡した後は、必ず「握手」をします。短い時間でも心が通う交流はないかと、2年前に生徒から発案があったものです。
「握手してもらっていいですか?」と生徒が問いかけると、「しわしわの手でもいいの?」などと言いながら、皆さん握手に応じてくれます。お弁当を運んだ生徒の手は冷えており、ある女性はその冷たさに驚きつつ、「寒いのにわざわざありがとう」と深くお辞儀をしてくれました。
お弁当を渡してしばし交流
最後は握手で別れる
お弁当を手渡した感想を、リーダーのMさんに聞いてみました。
「心から喜んでくれたのが伝わってきました。『いつも楽しみに待っているよ』と言葉をかけてもらったのがうれしかったです。また、工夫した部分に気づいてくれる方もいて、里芋の六方むきやにんじんの飾り切りを見て『手が込んでいるね』『きれいね』と言ってもらえました。」心を込めた「ひと手間」は、ちゃんと相手に伝わっていました。
宅配を終えたMさん
また、高齢者に対するイメージも変わったといいます。
「80歳ってまだまだ元気なんだ!と感じました。『農業を頑張っている』という方や、『趣味のぬいぐるみ作りを楽しんでいる』という方、皆さん本当に活き活きされていました。」年齢を重ねることに、前向きになれたようです。
宅配に同行した民生委員の皆さんも、高校生のパワーを実感しています。「高校生と話していると、高齢の方の顔つきがぱっと明るくなるんです。地域のためによく動いてくれる生徒たちは、藤田地区になくてはならない存在です。」
宅配終了後、生徒たちが片付けを行う調理実習室は、安堵感と充実感に包まれていました。
家政科食物科学類型3年生の皆さん
「試作で上手くできず放課後残って練習するなど、苦労もありましたが、喜んでもらえたことで報われました。後輩たちにも、宅配弁当の伝統をしっかり引き継いでいってほしいです」とMさん。「誰かのために行動すれば、相手にその思いが通じる。この経験を、料理でも、それ以外でも将来に活かしていきたいです。」
「相手に届けるために作る」って素敵だなぁ!
相手を思うことで、心が通じ合うんだね。
なお、「YOUTH CHALLENGE」では、「取材にきてほしい!!」という若者の取組を募集中です。
希望される方はお問い合わせフォームより、団体名、活動の内容を添えてご連絡ください!