「いきいき社会貢献」では、のっぷとティアが社会貢献活動に取り組む岡山の企業を取材します。
第32回は、株式会社小坂田建設(以下、小坂田建設)におじゃましてお話を伺いました。
なお、内容は取材当時のものです。
岡山市の北部に位置する建部町地域。
人口は約5000人、高齢化率は44.97%で、これは岡山市の27.16%を大きく上回っています。(※2024年7月末現在)
この建部町を“過疎高齢化先進地域”ととらえ、日常の困りごと解決や災害からの復旧などを通じて人々の生活を守り続けている建設会社があります。
小坂田建設(北区建部町川口)の小坂田英明代表取締役社長に話を聞きました。
小坂田建設は、『困りごと解決サービス』と銘打って、建設会社としては珍しく個人の困りごとを解決するビジネスに取り組んでいます。
小坂田社長「個人向けの『困りごと解決サービス』を始めたのは、2009年のことです。きっかけは、会社倒産の危機でした。父から会社を引き継いだときには既に赤字続きで、深刻な経営状況。
それまでは公共工事のみを受注していましたが、公共の仕事には波があり、毎年安定的に受注できるとも限りません。そこで、年間を通して仕事を確保しようと始めたのが、『困りごと解決サービス』です。サービスを始めて10数年になりますが、年間100件ほどの依頼があります。」
個人の顧客がいないわけではありませんでしたが、主に会社の所在地より北部で仕事をしていたこともあり、同じ建部町内でも南部の人からはあまり存在を知られていませんでした。
そこで同年8月から月に一度、新聞の折り込みで地域の2500戸に向け、自作の「笑顔通信」を発行。内容は季節の話題や旬の野菜を使ったレシピの紹介など、仕事以外のことです。
また折り込みを始める少し前、同年6月には、会社の敷地で初めてイベントを開催しました。
小坂田社長「イベントには500人以上が来場してくれました。来場者が重機に乗って撮った写真をカレンダーにして渡したり、ビンゴゲームやうどんを振舞ったりも。そこでアンケートを実施したのですが、会社の知名度はほぼなく、どんな仕事をしているかも知られていなかった。個人相手に仕事をしていませんでしたし、公共工事の建設会社というと数千万円以上の大きな工事しかしてくれないというイメージだったようです。大反省でした。
公共工事の会社といっても、遡ればそれ以前に地域の工事を請け負っていたはずで、我々の仕事の大本は地元にこそあるのではないかと。ここで何もしなければ空気と一緒だなと思ったんです」
折り込みを始めて3カ月ほど経ったころ、『困りごと解決サービス』の依頼がぽつぽつと入り始めました。
小坂田社長「当初、そこまで反響があるとは思っていませんでしたが、実は少子高齢化や中山間地域ならではのニーズがあったんですね。
例えば、足が悪いのでデイサービスの車が庭先まで入れるように舗装してほしいとか、雨どいの掃除をしてほしいとか。子どもの手があれば家の片付けを一緒にしたり、大きな荷物を運び出したりもできますが高齢者の一人暮らしだとこれも難しい。
そこに社員が行き、“困りごと”を解決しています。社員と話すのを楽しみにお菓子やジュースを用意して待ってくれている人も多いようです。社員には早く帰ってこなくてもいいから、話し相手になってあげてと伝えています。公共事業だけやっていると、直接お客さんと話すことはないですよね。社員も現場の仕事は楽しいようです。社内で図面の作成を担当していた女性社員も、自分も地域に出たいと言って『困りごとを解決サービス』の現場に行くようになりました」
斜面の草刈り
建物を突き破って生えた木を伐採
庭の片付け
このサービスをきっかけに本業での仕事の依頼があったり、地域との信頼関係も生まれています。
小坂田社長「困ったら小坂田に電話、という身近な存在になってきたように思います。
危機があったからこそ勉強できたと思っていますし、外に出ていくことで地域と繋がることができたと思っています。いつも道をきれいにしてくれてありがとうと、ジュースを持って突然会社を訪ねてくれる人がいたり、“小坂田さんがなくなったら困るわ”と言われる機会も増えてきました。10数年前までは考えられなかった状況です」
そんな小坂田建設が真価を発揮したのは、2018年に発生した西日本豪雨後の対応でした。
小坂田社長「中山間地域の特性上、大雨が降ったあとは土砂崩れや倒木で道路が塞がってしまうことがあります。こういったときは地域をパトロールして、その先の民家に繋がる道を必ず1カ所は通行できるよう整備しています。不測の事態に備え、救急車が通れるようにするためです。
倒木や土砂の流入などがあると、地元の人もどこに電話をかけて良いか分からず、うちにかけてくることが多いです。行政に繋ぐべきところは繋いで、道路の復旧を急ぎました。朝通れなかった道が、夕方には通れるようになっている…というように。
また西日本豪雨が発生した7月は、稲作をしている田んぼに水を切らしてはいけない時期。にも関わらず、水路が土砂で埋まっていたんです。この復旧も急ピッチで行いました。
土砂で道路や水路が見えなくなっていることもありますが、我々地元の人間は元の状態を知っているので、作業も早い。やはりそこは強みだと思います」
西日本豪雨後の復旧作業の様子(小坂田建設提供)
小坂田建設には、「アグリファーム福渡」「アクティブライフ」という2つの関連会社があります。
小坂田社長「『田んぼを代わりに耕作してもらえないか』という要望が結構あったんです。困りごと解決サービスのなかでは難しいので、別会社として「アグリファーム福渡」を設立しました。地域の耕作放棄地を少なくしたいという思いもありますし、元気な高齢者の働く場になればとも考えています。「アクティブライフ」は、軽作業で小坂田建設やアグリファーム福渡の仕事をフォローしてもらうなど退職後の社員の活躍の場を想定していましたが、現在は軽度の知的障がいのあるスタッフが所属しています。建設現場での作業は危険も伴いますので一度は断りましたが、これもご縁かなと働いてもらうことにしました。複雑な作業は難しいですが、1つ1つ伝えるとしっかりやってくれますし、集中力には目を見張るものがあります。またチェーンソーや刈払機を使ったり、玉掛け(クレーンを使う際に、フックに荷を掛けたり外したりする作業のこと)を行うには資格が必要ですが、これらを取得して現場で作業補助としても活躍してくれています」
社員のほとんどが地元に住んでいて、異業種からの転職者も多いといいます。
小坂田社長「うちの取り組みを知って、来てくれる若者もいます。ブラックといわれる建設業界で“スーパーホワイト”な企業を目指しているので、たとえば子どもの参観日とか、奥さんの代わりに子どもを迎えに行くだとか、そういった場合に1時間単位で有休をとれるようにしています。残業はひと月あたり3から4時間ですが、これは1分単位でつけてもらっています。経営者としては大変ですが(笑)。また有休がとれない、特定の人が休めないといった状況を作らないよう、仕事に必要な資格を社員それぞれが取得するようにもしています。もちろん、資格を取得するまでの費用は全額会社が負担します」
誰がどの資格を取得しているかを示す一覧表。休憩室の壁面に貼ってあるそうです
小坂田建設は社員と役員合わせて14人。小坂田社長含め、このうち5人が地元の消防団員です。
小坂田社長「うちは岡山市の消防団協力事業所でもありますし、出動要請があったときは現場を止めてでも行くようにと指示しています。現場は大変にはなりますが、地元で働いているからこそできることだと思うので。建設業界には珍しく、わが社は完全週休2日制。建設業だからできない、と言い訳を探さずに、建設業だからできる、を増やしていきたいですね」
今年、創業69年を迎えた小坂田建設。今後の展望を聞きました。
小坂田社長「地元にとって、もっともっと身近な会社でありたいと思います。建部には気軽に集って交流できる場所が少ないので、カフェのようなスペースを会社に作れないか検討しています。今年で創業69年ですが、やはり100年企業を目指したい。周りを見渡すと、建部地域周辺の建設会社は社員2から3人規模で、平均年齢も50歳といった企業がほとんどです。会社と地域の維持は表裏一体で、会社の維持が難しくなると地域の維持も難しくなるのではと危機感もあります。でも、建部町は“過疎高齢化先進地域”。今後、日本のあちこちで起こり得る状況を先んじて経験しています。また会社が業界誌に取り上げられたのをきっかけに、他県の企業が見学に来られたりもします。課題は山積みですが、会社を維持することが地域を守ることに繋がると自負し、まい進していきます」
地元密着の企業が、得意分野で社会貢献をして、それが企業の信頼につながっていく…。
Win-Winのサイクルが回る素晴らしい活動だね!