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第1回 新たな視点で地域資源を価値化~人口減少社会におけるゼブラ流産業の考え方~

[2025年3月31日]

ID:69331

基調講演

株式会社陽と人 代表取締役 小林 味愛氏
「新たな視点で地域資源を価値化~人口減少社会におけるゼブラ流産業の考え方~」

小林氏
来場者が話を聞いている様子

地方創生の在り方に疑問感じ、一念発起し移住・起業

私は、国家公務員を退職後、コンサルタントとして地方創生に関わり、総合戦略や総合計画づくりに携わっていたのですが、どの地方でも同じ計画がつくられており、儲かっていたのは東京の会社ばかりで地方にお金が落ちていないことに矛盾を感じ「これは本当の地方創生か」と悩んでいました。悩むぐらいなら、地方に飛び込んで「一人でもいいので『ありがとう』と言ってもらえる愛のある仕事がしたい」と一念発起し、いきなり仕事を辞めて、福島県国見町に移住し、起業しました。

国見町を選んだのは、東日本大震災以降、福島の役に立ちたいという思いが強く、復興も支援からも外れていた地域だったためです。役場からは「東京でのキャリアを捨てることになるからやめた方がいい」と言われましたが無理やり移住しました。決めていたのは、あらかじめ事業計画をつくらないこと。計画を立てていても、それが本当に地域のためになるか分からず、地域に実際に飛び込んで、一人ひとりから課題を聞かないと判断できないと思ったからです。また、人手が足りない中で、同じ地域内で競っても仕方がなく、戦わず共存共栄できる戦略づくりや人が嫌がることをしないことを念頭に置いていました。

朝4時から作業を手伝うことで信頼関係構築

国見町は、福島県の最北端で宮城県との県境にあり、人口8000人で農家の平均年齢72歳の町。日照時間が長く降水量も少ないため、木が立派に育つ果物栽培に適した土地で、桃や柿などが特産品です。

移住してすぐに、町を歩き回ってみましたが歩いている人は少なく、見かけた人に話しかけると「誰だ」、「どこから来た」と冷たい反応で相手にしてもらえず、今まで会社や組織の肩書に守られていたことを痛感しました。そんな中でも、農作業を手伝いたいと告げると「朝4時に来い」と言われ、その時間に行き草刈りや肥料まき、収穫などを続けることで、「結構ちゃんとやる。あいつは信用できるかも」と信頼関係ができ、1年ほどしてようやく本当の困りごとを聞けるようになったのです。

生産者の課題は、震災の影響などで単価が下がっていて、収入が厳しいことや、桃の1から4割は見た目が小さいなどおいしいのに規格外品として廃棄されていること。農業を持続可能にするためにはお金を生み出さなければならず、どうすれば次の世代に受け継げるか、幸せ、笑顔、人の温かさが続けられるかを考え、「福島県の農業課題解決」と「女性を取り巻く課題の解決」の2つに取り組みました。

農作業

セオリー・オブ・チェンジで事業を構築

事業計画をつくる際は、課題を構造的に把握してどこに私たちが介入するかを考えるためにセオリー・オブ・チェンジの考え方で事業を組み上げました。農業の課題では、生産者の収入を上げるために、顧客のニーズから新たな規格を設定し、主に県外での販売を強化しました。規格外品を含めて全量買い取りし、農家まで直接取りに行く集出荷オペレーションや、運送会社のトラックに相乗りさせてもらいコストを抑えて運ぶ仕組みを構築して、直販やオンラインで販売しています。例えば、国見町産の「蟠桃(ばんとう)」は、つくれる生産者が少なく数量限定品のため、インバウンド需要から銀座などであっという間に売れるなど大人気です。そのほか、生産者の平均年齢が高く手伝ってほしいという声もあり、社員総出で畑に手伝いに行ったりしています。

桃
桃を仕分けている様子

女性の課題では、健康課題にフォーカスしています。現代女性は妊娠、出産回数の減少で、生涯の生理の回数が450回と100年前のおよそ9倍となっており、健康リスクが増しています。健康課題に悩んでいる女性に本当に喜んでもらえる製品をつくりたいと考えていた中で、あんぽ柿の生産工程で廃棄されていた皮に着目しました。調べてみるとポリフェノールの含有量が多く、消臭、抗菌作用や毛穴を引き締める効果があることが分かりました。皮を主原料に、デリケートゾーンのトラブルや、女性特有のさまざまな悩みに寄り添うケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」を商品化。健康課題に関する知識をまとめた冊子の配布や、女性の健康課題をテーマにした研修なども行っています。2つの事業により、生産者の収益上昇などの社会的インパクトの創出につなげることができました。

ゼブラはステークスホルダーインパクトが大切

ゼブラ企業とは、評価額1000億円をこえる未上場企業「ユニコーン」が短期、独占、株主至上主義という現在の資本主義の在り方を象徴したものとして注目され、この風潮に危機感を覚えたアメリカの女性起業家4人が2017年に提唱した概念です。定義は、

  1. あくまでよりよい社会をつくること
  2. お金を出資してもらって一気に成長するのではなく複合的な課題に対し、時間がかかってもさまざまな人と一緒に解決すること
  3. 10年など長期間かかるが、関わったステークスホルダー全員を幸せにすること
  4. 本当に自分たちがやりたいことをするためにビジョンを共有し、行動を一貫していることなどです。

社会性と経済性の両立は難しく、一定の成長をしていわゆる「死の谷」を越えるのに7から10年かかることもあるなど時間が掛かり、資金面で苦労することもあります。社会的インパクトや経済的インパクトはもちろん大事ですが、ゼブラ企業の特徴であるステークスホルダーインパクトが一番大切で、会社に従業員が合わせるのではなく、従業員に会社が合わせる環境づくりも必要です。当社では、給与を控除しないフレックス制や在宅勤務などを導入しており、なにより働き甲斐が感じられ、東京よりも成長できると感じてもらえるよう努めています。また、人手不足対策として7から9月のピーク時に地元金融機関や大学などにも手伝っていただくなど、地域内外との連携構築も不可欠です。

地域に可能性は溢れており、一歩踏み出して

ゼブラを目指す人への支援者に求められるのは、地方創生に明確な解決策はなく既存の知識や技術のみでは解決できないため、専門家派遣よりも、対話と傾聴による伴走支援が必要です。「敬意を持って対等なパートナーシップを築く」、「経営者の想いや本質的な課題の言語化を支援」、「具体化と抽象化の両方をフィードバック」、「解決策が明確な技術的課題が出た際に適切な専門家を紹介」を心掛けてもらいたいと思います。

地域には、まだ価値になっていないお宝がたくさんあります。実行する人財と支える適切な支援があれば地域に可能性は溢れていますのでまず一歩を踏み出してください。

パネルディスカッション

株式会社陽と人 代表取締役 小林 味愛氏 × 株式会社邦美丸 代表取締役 富永 邦彦氏
(ファシリテーター:株式会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズ 取締役 石元 玲氏)

富永氏
パネルディスカッションの様子

邦美丸について。

富永:結婚を機に、20歳で大阪から玉野市に来て妻の家業の漁師を継ぎました。漁師の世界は、深夜2時から夕方5時まで海に出て魚を獲るなど想像以上に厳しく、一度は漁師の仕事を辞めてしましました。再トライする際に、自分が10年後も漁師を続けるために働き方を変える必要があると思い、受注があった時のみ漁に出る「受注漁」を考えました。結果、売り上げが2倍になったほか、燃料費も30%ほど削減できています。

私はビジネスマンでも起業家でもないですが、ビジネスプランコンテストで15の賞をもらえるなど社会的に評価され驚いています。働き方を変えると、求人を出してなくても漁師になりたいという声も来るようになりました。受注漁を周りに広めればいいのではとの声ももらいますが、漁師は高齢化が進んでおり、ネットなどが使えず難しいのが実情です。現在は、獲った魚を共有し地域として受注漁に取り組む「黒鯛プロジェクト」を進めています。乱獲と気候変動影響などで近海の魚の量が減少しており、その解決策として受注漁の考え方が広まればと思います。

魚
魚を持った富永氏

地域の理解や信用をどう勝ち取った。

小林:大変功労しました。女性には無理と言われ、明らかに試されていると感じました。とにかく通い続けてさまざまなお手伝いを積み重ねることで「がんばってたらしいぞ」と徐々に広まりました。やり切ってやるという思いで続けていると面白さも感じ始め続けることができました。東京と地方では、信用という言葉の概念が違うように感じます。例えば、「売買」一つとっても、東京では単に売る、買うという売買契約の関係ですが、地方の売買は「信託」の概念に近い感覚を持っており、お金と交換するのではなく、大切に育てたものをお前に預ける、俺はお前を裏切らないから一緒に頑張ろうというイメージです。中途半端にやるのは迷惑で、本気で向き合いできることをやり切った結果、1世帯当たり数百万円くらいの所得増につなげることができました。

富永:一度漁を辞めてからの再トライだったため、「お前は信用を裏切った」という周囲の目もありました。関西弁から岡山弁を覚えるよう努めたことでコミュニケーションが増え、徐々に溶け込め信頼構築につながりました。

パネルディスカッションの様子

家族との関わりは。

富永:以前は魚を獲ることしか考えていなかったのですが、受注漁で子どもとの時間を増やすことができました。子どもは現在中学3年生ですが、「大学は経済学部を目指し、将来、邦美丸を経営の面から下支えたい」と言ってくれたのが嬉しかったです。

小林:夫は都内で保育園の運営をしていますが、生産者からは息子のようにかわいがってもらっていて、収穫時には福島に来て収穫部隊として手伝ってくれます。子どもが福島に来ると、生産者は「久々に子どもの声を聞いた」と喜んでくれますね。

メッセージを。

富永:自分自身も社会の一部で、自分の悩みが社会課題とも考えられます。悩みを解決できれば、同じ悩みを抱える人の悩みも解消され社会や地域がよくなります。受注漁のおかげで地域課題に向き合うこともできるようになり、これからもしっかり考えていきます。

小林:福島でも岡山でもさまざまな地域課題がありますが、課題はチャンスと考えるべきです。福島だからできた、この人だからできたではなく、誰もが可能性を持っており、より良い地域づくりにチャレンジしてもらいたいと思います。

集合写真
富永氏と小林氏