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第2回 観光地から関係地へ~地域連携とマーケティング支援によるまちづくり~

[2025年3月31日]

ID:69688

基調講演

株式会社アキウツーリズムファクトリー 代表取締役 千葉 大貴氏
「観光地から関係地へ~地域連携とマーケティング支援によるまちづくり~」

千葉氏
来場者が話を聞いている様子

家業のスーパー再建ノウハウをまちづくりに

私は仙台市の出身で、実家は食品スーパーを経営しており3代目となります。スーパーを事業承継しEC事業で経営再建を果たしたほか、現在3社を経営しています。まちづくり事業のきっかけは、東京で大手ビールメーカーから声が掛かり、東日本大震災の復興支援プロジェクトにおいて、現地でのコーディネート業務を担当してほしいと依頼されたことでした。さまざまなNPOと連携し、ハードではなく、人や取り組みなどソフト面に対する取り組みを支援することになりました。スーパー経営もまちづくりも、どちらとも地域の困りごとを聞きながらあれこれ動きまわることで集客につながる部分は似ていると感じたこともあり、幅広く取り組みました。その中で、宮城県仙台市の温泉地で有名な秋保(あきう)町のまちづくりに携わることになりました。

秋保は、仙台駅から西に車で30分ほどの距離にある温泉街を中心とした自然豊かな所です。1988年に仙台市に吸収合併されたことで、行政によるまちづくりの手が止まり、各旅館の競争激化で個別バス送迎が始まり、旅館内に飲食や娯楽施設を備えているため外を出歩く観光客も少なくなり、商店街が消滅する事態となっていました。その旅館の宿泊者数も年々減り、学校の廃校などで20から30代の女性が10年間で45%減少するなど、大変な状況の中でのスタートでした。

地域課題を仕分けし民間がやるべきことを決定

最初に取り組んだのは、里山を気持ちよく走るサイクルツアー企画でした。19町内会への説明では、「町内を自転車が走ると危ない」と半数以上の反対を受けましたがなんとか説得してスタート。飲食店にサイクルステーションを設置するなどして、ツアー中に地域でお金を使ってもらうもので、国のインバウンド施策が追い風となり、台湾、香港、韓国など外国人の参加が多く、「もっと早く次のツアーをやろう」と周囲の目が変わり後押しされるようになりました。

そんな中、2016年5月に仙台市でG7財務大臣・中央銀行総裁会議が開かれることが決まったことをきっかけに、本格的な地域課題調査を行うと、地域交通の不足、人口減少、担い手不足、学校の廃校などさまざまな課題が挙がりました。それを私たちができること、行政がやるべきこと、どうにもならないことに仕分けし、民間では「外部との交流、学びの場」を整備することを決定。経営者10人が集った中で私が代表となり、出資者26人から2100万円を集めてアキウツーリズムファクトリーを立ち上げました。

話しを聞いている様子

一番大きな古民家を再生し交流拠点開設

秋保に関わる人を増やすために「観光地ではなく、関係地をつくる」ことをスローガンに活動を開始。まずは、およそ150人が参加する地域の集会で「まちづくり方針」を発表し、自然保護や地産地消、全員でより良くなるよう考え、秋保を誇りに思いこよなく愛すことなど思いを伝えたことで長老らの共感を得ることができました。また、地元新聞の取材で受けた際に「なぜ秋保を応援するのか」の問いに「仙台にとって秋保は宝」と答えたことなどが記事で取り上げられ、地域住民から信頼を獲得できました。

交流の拠点として目を付けたのが、過去には町長が住んでいたという町で一番大きな古民家です。住民に親しまれている建物を大規模改修するプロジェクトですが、地元工務店からは「直す方が高くつき、建て直せば3分の1でできる」と断られ困っていた所、岡山市の建築家・大角雄三さんの紹介を受け、協力してもらったことで完成することができました。そういった面でも岡山とのご縁を感じています。

アキウ舎改修前
アキウ舎

地元のお母さんに協力してもらい郷土料理と地元生産者の商品をアレンジしたメニューを開発するなど、多くの人に地域の中での「役割」と「出番」をつくることで、カフェレストランやアーティストの作品展示、ウェディングパーティーなどサービス内容が完成。2018年に、新旧の良さを融合した古民家レストラン「アキウ舎」が無事にオープンし、オープニングのレセプションには地域住民、旅館関係者、仙台市長もかけつけてくれ、その後は交流と学びの場としても活用し町のランドマークとして多くの集客につながりました。

勉強会

派手なエンタメで話題つくり観光客増

まちづくりの目的は、モノを売りたいなどの金儲けではなくあくまで関係人口を増やすこと。次に秋保で活躍する人に着目し、取り組みを紹介する「AKIU BRAND MAKERS」を自費出版で発行しました。秋保の未来を面白くする人なら、住んでいない人も対象で、秋保でブドウを育ててワインづくりに挑戦しているMONKEY MAJIKのヴォーカル・ブレイズ・プラントさんなども取り上げています。そのほか、地域の物語りをビジュアル化した幅3メートルほどの「秋保温泉郷絵巻」は、まちづくりに貢献した人230人が登場し100年後の後世に語り継ぐのが目的です。昔、忍者がいたという声を受け、サイクルツアーを「アキウニンジャライド」にブラッシュアップしたり、伊達藩ゆかりの食材の提供など派手なエンターテインメントを積極的に取り入れることで、県外や海外からまちづくり団体が視察に来るなど、アキウ舎の店舗利用客数は年間4万人と順調に伸ばすことができました。

そんな中、2020年4月に新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、アキウ舎は2カ月間の閉店を強いられました。まだ借金もある中、売り上げが止まり、「終わったな」と諦めかけましたが、今できることを考えデジタルマーケティングで現状を分析。どこで誰がサイトを検索しているか、どの店にどれだけ滞在しているかなどを調べたところ、アクティブシニア中心の温泉旅館の客はあまり来店しておらず、若い女性が多いことが明確になり、メニューの作り直しや裏庭を更地にして芝生を植えガーデンレストランにするなど店舗を見直し。コロナ前の1.5から1.6倍の過去最高売上高を記録することができました。その後、事業再構築補助金などを使って仙台市内から移転する飲食店なども増え、秋保に集積するカフェとそのオーナーを紹介する「カフェ&人マップ」や、ライブインベントなどを行い、若者を巻き込んだSNSでの情報発信などで広告費用を掛けず自社店舗のフォロワーが1万人になるなどまちの活気を回復させることができました。

経済利益を新たな活動に分配する仕組みつくる

昨年、新たな地域の循環を生み出すプラットフォームとして「AKIU VALLEY協議会」を設立しました。大学と協定を結んだり、交通難民対策として乗り合いタクシーの増便の実証実験を行ったり、農家の収穫を祝い若者も楽しめるハローウィンパーティーなどを実施。また、奥山のブランディングにも取り組み、音を気にせず開くパーティーイベントや、イヌワシが住む町としてのPR活動などで旅行雑誌の特集が組まれるなど、観光地再生として脂が乗ってきました。まちづくりを点から線、線から面にできるよう、住民を巻き込んださまざまな取り組みに更に力を注いでいきます。

秋保では事業者のほとんどが旅館だった頃の名残で利益の配分は旅館業が中心でしたが、成長した経済利益を新しい活動に分配する仕組みづくりができ始めています。地域で新たな取り組みや小さな会社を育てていくことで、地元への社会的なインパクトと経済的な利益をもたらす成長と分配のロールモデルを目指していきます。

パネルディスカッション

株式会社アキウツーリズムファクトリー 代表取締役 千葉 大貴氏 × 株式会社KKM川崎 代表取締役 川崎 一平氏
(ファシリテーター:株式会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズ 取締役 石元 玲氏)

千葉氏
川崎氏

KKM川崎について。

川崎:当社は、父がカレー店を16年間運営してきましたが、新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ち込んだことをきっかけに、電子部品メーカーを早期退職し世代交代しました。岡山市の未来づくり補助金を活用して、2021年12月に「五福工房」を開業。当初は、カフェのみをオープンし、翌年、発泡酒製造免許を取得し地ビールの岡山西大寺麦酒とピザ工房を立ち上げました。店舗として改装した倉庫は、以前から活用しないのはもったいないと感じていた物件で迷いはありませんでした。人に楽しんでもらおうと地ビールを始めて2年半が経過しましたが、まだまだ認知度が上がっていないのが課題です。

千葉:大手ビールメーカーの復興支援プロジェクトに携わっていた際に「ビールは毎日飲み続けるもので、ブランドの取り組みやどういう場所で飲むなど、いかに印象に残すかが大切」と聞かされました。味だけでなくどういう存在であるかを考える必要があるのかもしれません。

ビール
ピザ工房

地域活性化に取り組む上で地元ならではの良さややり辛さは。

川崎:地元の場合、住んでみないと分からない良さを知っていることがメリットです。案外中心部に近い、周辺に店舗が少なく目立つことができるなど立地の良が分かっていたので迷いはなかったです。悪い点は、固定概念で周囲から「やってもだめだ、売れないよ」とアドバイスを受けることです。意見をくれるのは積極的な人が多く、巻き込んでいければ力になるとプラスに捉えています。

千葉:子どもの先生や友達の親が会社のことを話していたなど、家族に何をやっているか伝わりやすいのが良い点です。一方で、事業のボトルネックになる人が仲の良い人だったりすると言いにくいというのがあります。知っている関係だからこそ気を遣うことは多いですね。

パネルディスカッションの様子

地域の魅力を外へどう発信している。

千葉:関係人口が増やせる関係地をつくることです。カフェや飲食店の場合、大学と連携することで学生による情報発信などが期待できます。ただし、相手にメリットがあるなどお互いに良くなる関係性ができないと長続きしません。現場に入り込み、何を求めているかをつかむなど解像度を上げる必要があるでしょう。

川崎:前職から大切にしていることは(1)常に技術を磨き続ける(2)すぐに対応できるよう備える(3)自分の頑張っている姿を人に見せ続ける―ことでした。これにより、自分がこういう想いでつくっている、こういう感想をもらうためにつくっているなどを前面に出していき、賛同してくれる人を募り、共に育てていくことができればいいと思っています。

千葉氏が話している様子

メッセージを。

川崎:まだ3年目の経営者ですが、やっていくべき地域貢献があると感じています。千葉さんの活動は非常に参考になり、今後の活動に生かしたいと思いました。皆さん、ぜひ西大寺に来て五福カフェで食べて、一度地ビールを飲んでみてください。

千葉:古民家の再生においては大角先生に出会わなければ実現できなかったと感じており、地域と地域はもっとつながるべきだと思います。近場同士で出来ることだけでなく、遠隔地の文化とつながり知ることが大切だと感じています。お互いの地域をより良くするために共に知恵を絞り今後も交流していきましょう。

集合写真
川崎氏と千葉氏