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第3回 未来の里山をつくる~森を起点とした複合事業の取組~

[2025年3月31日]

ID:69999

基調講演

株式会社エーゼログループ 代表取締役 牧 大介氏
「未来の里山をつくる~森を起点とした複合事業の取組~」

牧社長講演
講演会の様子

少量多品目の「会社の百姓化」図る

当社は「未来の里山をつくる」をビジョンに掲げ、木材加工から、介護事業、企業研修、イチゴ農園、養蜂、ウナギなどさまざまな事業を複合的に展開しています。かつて里山では、家という単位で年間を通じて、時間と空間を効果的に使いながら農業や畜産などいろいろ成り立たせており、同じような考え方で会社という単位の中で、他業種複数の業種にまたがった少量多品目の「会社の百姓化」を図っています。社名の由来は、森林土壌の表層にある堆積有機物層を「A0(エーゼロ)層」と言い、A0層があることでその下に腐食を多く含む豊かな土壌が守り育まれることから、当社も地域で受け継がれ蓄積してきた自然や歴史、文化、経済を守りつつ、チャレンジすることで地域のA0層になるという思いを込めました。子どもが自然の中で生き物たちと触れ合い、命のつながりを探しながら生きていけるような未来を模索しています。

地方創生は悪循環の構造を壊し再構築すること

地方創生とは、現状の悪循環の構造を壊しながら好循環の構造を再構築することだと考えています。社員には、悪循環の構造に収まるのが正義なら、我々は仮面ライダーで言う悪の組織「ショッカー」で、壊すことで地域の人から怒られるのが仕事だと話しています。その悪循環を生み出しているのは、「過疎化はどうせ進む」、「子どもはどうせ帰ってこない」などの諦めです。しかし、本当はそうではない未来を望んでおり、そこに敏感に反応することで新しいチャレンジが見えてきます。それらを踏まえて、風景や自然、文化を守り未来に届け守るために、複雑なシステムや表面的な構造をどう壊しながら行政と関わり、連携していくかが重要です。また、スタートアップベンチャーの世界では通常あるような、価値の増加も大切だと思います。

未来の里山
木材加工の様子

中山間地域の諦めの声から支援を決意

私は、大学時代から生態学を専攻しており、山奥の村に関わって自然や生き物、人との関係などを調べてきました。大学院生の時に滋賀の山奥でおじいちゃん、おばあちゃんたちにどのように自然と関わってきたか、どう生きてきたか教えてもらった中で、「どうせ」という諦めの声も聞かれ、私は未来の里山づくりを諦めたくなかったためチャレンジできないかと常に考えていました。卒業後、シンクタンクで自治体の政策や民間の経営コンサルの仕事をしていましたが、環境をテーマにした新しいコンサル部門の立ち上げに参加して責任者となり、西粟倉村にも関わるようになりました。

西粟倉村は鳥取県との県境にある人口約1300人の小さな村です。2008年からチャレンジする人を応援しようと起業家支援に取り組み、約50社が設立し年間売上高がおよそ20億円となりました。Iターンでおよそ200人、Uターンで70人など若者の流入も多く、課税所得は16.7%増えており、高齢化で人口は減少しているのに納税者は7%増えています。周辺自治体は減少している中で、新しい事業価値を生み、人を増やす政策が成功している地域と言えます。

「定住しなくていい」で村外から注目集める

西粟倉村が活性化するまでの流れは、2006年に森林組合を退職した國里哲也さんが「木の里工房木薫」という会社がローカルベンチャー第1号を立ち上げたのがスタートです。企業の採用活動を応援しようと翌年、役場が中心となり“村の人事部”というコンセプトで雇用対策協議会が立ち上がりました。ただ単に「西粟倉村に来てください」と呼び掛けても人は集まらないため、2008年には「百年の森構想」を旗揚げし、地域全体で諦めずに森を育てていくとビジョンを宣言し、金融面では現在のクラウドファンディングに近い「共有の森ファンド」を立ち上げオンライン公募で応援団を集めました。皆が森を応援しファンになってもらう関係人口を増やす取り組みです。

2015年には、地域でのチャレンジを増やそうと「西粟倉村ローカルベンチャースクール」を立ち上げました。キャッチコピーは「定住しなくて、いいんです。」で、役場内では「定住政策なのに」と、もめたようですが、「定住するかどうかは結果なので、前面に出すと来てもらえませんよ」と伝え納得していただけました。結果、懐が深い村という印象が付き、多くの応募者が集まり小さな会社を増やしていくことができたのです。現在では、ローカルベンチャースクールは北海道厚真町、鹿児島県錦江町と広がっていますが、行政担当者には、失敗を経験しないと育たないため「失敗をされたら困るというつまらない責任感は結果を産まない」と伝え、人を育て応援することに使命感は持つよう話しています。

森を起点とした複合事業を構築

当社の事業としては、2009年に地域の木をお客様に届け、森と暮らしをつなぐ会社として株式会社西粟倉・森の学校を立ち上げたのが始まりです。製造業の経験もなく、スタッフもほぼ木材加工の経験がない中で「やるしかない」とゼロからのスタートでした。工場稼働2年目には、売上高が1億2000万円になったものの、営業赤字となり1億円の資金不足となる経営危機を招きましたが、個人で100万円貸してくれる人を100人集めるやり方でお願いして回りなんとか資金を集め、お金を貸してくれた人が無償でPRしてくれたこともあり、2年後には営業黒字に回復させることができました。

その後は、森を起点にどのような事業ができるかを考え、木材加工で出た木くずを活用してウナギを育てる、養鰻で出たものを肥料としてイチゴなどの農業に生かすなど循環型事業を展開しています。社内では、量がまとまり安定すると資源になることから「ごみ箱の概念を捨ててみよう」と伝え、その資源を運ぶと余分なエネルギーやコストが掛かるため、地域の中でいかに活用を重ねるかを追求しています。また、ウナギのかば焼きとジビエ事業の鹿の解体を同じチームでやるようにしています。ウナギの生産は安定していますが、鹿は猟師から仕入れ不安定なため専属でスタッフを置くわけにはいかず、多能工化を図り全体としてビジネス化を図っています。

AI、ロボットの普及で誰も1年先が分からない時代ですが、人間だけが自然や生き物との結び付きを求める性質を生まれつき持っています。自然とのつながりや命とのつながりを実感しながら生きたいという人間の根源的な欲求に応えるサービスや商品をどうつくるか、中山間地域だからこそできる追い風を感じています。ものづくりで勝負するのは、小規模な場合はよほどのブランド力が必要となります。地域全体で、自然との接点を土台とした体験やサービスをつくっていくことが重要となるでしょう。

ウナギのかば焼き

夢中になり真剣に遊べる人が活躍できる場を

地方でより好循環の流れを生み出すためのポイントは、
1. とにかくやらかす
2. 忖度型合意形成は、お互いに責任回避するため地域をダメにする。
  みんなでやろうぜというワクワク型合意形成が必要
3. 難しいことに挑戦する人に応援と仲間が集まる―です。
一言でいうと真剣に遊ぶことが重要で、やらされた責任感、安っぽい責任感ではなく、夢中になって真剣にやる人が活躍できる場をつくることです。行政には、真剣に遊ぶ人を無責任に応援することが求められます。それができると地域はガラッと変わります。事業を立ち上げる側はとにかくたくさん失敗して、打席数をこなさないといい事業に辿り付きません。これからも、「シン里山」の開発と普及を目指し、遊び的な生き方をどう増やしていくかを追求していきます。

パネルディスカッション

株式会社エーゼログループ 代表取締役 牧 大介氏 × 株式会社シーセブンハヤブサ 代表取締役 古田 琢也氏
(ファシリテーター:株式会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズ 取締役 石元 玲氏)

吉田社長が話している様子
牧社長が話している様子

シーセブンハヤブサについて。

古田:八頭町は鳥取市内から少し離れた中山間地域にあり、市町村合併で3つの町が統合したエリアです。当社は、新たなまちづくり事業を推進する事業会社として設立し、官民地域一体となって取り組みを進めるコミュニティ複合施設「隼Lab.」の運営・活性化を担っています。隼Lab.は、2017年3月に閉校となった隼小学校を改装し同年12月にオープンしました。全国的に見ても、廃校活用は赤字運営が多いですが、校舎を八頭町から借り、民間主体で黒字化と人を育てる拠点づくりにこだわってきました。

2、3階をコワーキングスペースとシェアオフィス、1階にカフェや地域の方が使えるスペース、訪問介護ステーションなどがあります。コワーキングには40社が登録し、シェアオフィスも満室となりコンテナで3部屋を追加しました。経営スクールも開き15社くらいの企業が生まれています。カフェも週末に1時間待ちになるなど盛況です。ビジネスで利用する若者と高齢者らをどう違和感なく交わらせるかを考え、餅つき大会や書初め大会なども行っています。地域の人に使い倒してもらうことが重要で、閉校で地域に集まるところがなくなり、親世代同士の接点もなくなることを受け、村の人口が減る中でも生き残っていく新しいコミュニティの在り方を探っています。

隼Lab
カフェ
餅つきをする様子

廃校を利用する上で地域との合意形成が大変だったのでは。

古田:住民それぞれに学校への思い出があり、どのように使っても文句が出ます。各村にあいさつに行き、意見を集約する協議会をつくってもらいその内容を議論するようにしました。中心に立つ人がワクワクして、本気で取り組んでいることに対して、だったら信じてみようという合意形成が生まれると思います。住民に思い入れを持ってもらうために、校庭の芝生をみんなで植えたり、芝刈りをするなど地域を巻き込んだり、カフェをバリアフリーにして高齢者や幼児が来やすいようにするなどして納得感を提供することができました。

吉田社長が話している様子

事業に不可欠な資金調達の考え方は。

牧:ローカルでのファイナンスは、本当に一通りやってきました。出資や融資など使えるものは何でも使うという考えですが、補助金は面倒な面もあり極力使わない方がよいと考えています。

古田:私は補助金=悪とは思っていません。稼いだ分を町のために使えばいいという発想です。八頭町と西粟倉村は近いため、以前から牧さんの活動に注目していましたが、ゼロから林業を立ち上げ、やり切れるだけの調達力は本当にすごいと思います。お金を出してもらうには儲かるだけではなく、魅力や人望、ビジョンが必要では。

牧:やるしかないと思いやったが大変でした。銀行から借りられる範囲で借りて、役場を活用した出資調達なども受けました。個人の出資者には、経済的なリターンは期待できませんよと伝えています。当社が展開する事業が、全人類に必要な課題解決につながり、未来に残すべき会社と評価してもらっている部分もあると思います。

パネルディスカッションの様子

今後やりたいと思っていることは。

牧:要介護者でも家族と旅に出たいというニーズがあり、介護スタッフがいて家族で宿泊できる拠点を整備したいと思っています。また、土地の自然を守り生かすアクティビティを開発する「野遊びチーム」や、田んぼビオトープの仲間も募っており、発展させたいですね。

古田:私のチャレンジを見た人がチャレンジする流れをつくり、次代の人材に社長を譲りたいと考えています。同じ人が続けると、凝り固まった発想になるので町のためにも早い方がいいと思います。私自身も実は友人と一緒に事業をしたかった思いがあり、使命感よりも自分の好きなことに取り組んだ結果、地域社会にインパクトを出すことができした。多くの人がチャレンジできる環境を整備したいと思います。

集合写真
(左)吉田社長、(右)牧社長