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−第33回(平成13年度)− |
わたしの総身には 夥しい人の群が息ずいている 縄文の昔から今へと脈々と続く人の群が ハーモニカの音に胸の奥のひとりが泣く かがり火に尾骨がざわめく 極楽とんぼな足に祖父が住む 胸の薄さに母が宿る 指先が青くなるほどに ひとを恋して眠れない夜 体内からのつぶやきが聞こえてきた あのひとはわたしが愛した男だ と いったいわたしは誰だろう 深夜 人の群が寝静まる刻 鏡をそっとのぞいてみた 白熱光に照らされた鏡には ゆらゆらと ゆらゆらと のっぺらぼうが揺れていた きっとわたしは幾千もの人達が 生きたと言う証を 次の世に送り届けるために 選ばれたに違いない ならばひとつの器になりきって 幾千の人達の声に じっくりと耳を傾けようではないか 共にこの世を謳歌しようではないか なによりも やがて人の群に混じる日のために わたしが生きた証を 背骨に凛と刻みこんでおくことも 忘れないでおこう ああ今日もまた 夕陽を愛したまなうらの父が 饒舌になる刻がやってきた |