2016年1月29日(金曜日)に第10回ESDカフェが開催されました。テーマは「福島の牛とともにいのちの大切さと持続可能な社会について考えよう」。「希望の牧場・ふくしま」代表の吉澤正巳さんをお招きし、2011年3月11日(金曜日)に起きた東日本大震災、そして原子力発電所の事故から約5年が経とうとする今の被災地の様子や、福島県双葉郡浪江町にある牧場の様子などをお伺いし、持続可能な社会づくりについて考えました。
福島県双葉郡浪江町には、もともと約2万人の方が暮らしていたそうです。しかし、福島第一原子力発電所から、最も近くは4キロのところに位置する浪江町は、東日本大震災の原子力発電所の事故後に全域が避難指示区域に指定され、現在でも居住することはできません。一部日中の立ち入りが許可されている区域もありますが、3分の2が帰還困難区域に指定されており、立ち入ることもできない状況にあります。住民のうち約7,000名は福島県外へ、約13,000名は福島県内の浪江町以外の町に避難されているそうです。避難されている方々のうち50%はもう地元には戻らない、15%は戻りたいと希望し、その他25%は今後のことはわからないと答えているとのこと。浪江町にある小学校に通っていた子どもたちは、浪江町以外の50か所に散らばって生活を送っています。
吉澤さんは、「人が戻ることのない町に、未来はあるのか」という絶望的な考えが脳裏をよぎることもあるそうです。
原子力発電所の事故後、人のいなくなった町に取り残された牛は餓死し、約1,500頭が命を落としました。また、生き残った牛も、国の方針でやむなく殺処分されたそうです。経済畜産動物といわれる豚やニワトリなどの動物も同様の対応がなされました。ほとんどの牛飼いが殺処分に同意する中、吉澤さんは、断固同意せず、自分の飼育する牛の命を守るために牧場に残ることを決意したとのこと。現在、330頭の牛とともに「希望の牧場・ふくしま」で暮らし続けています。毎日のえさやり、排せつ物の処理など毎日たくさんの仕事をこなしています。
被ばくをして、経済的には価値のなくなった牛たちをどうして生かし続けているのか?そこにどんな意味があるのか?意味はないのか?自問自答し続ける日々。それでも、希望を胸に牛とともに生きる道、自分の選んだ道を歩み続けています。
以前、牧場を取材にきたドイツ人のレポーターに、こう聞かれたそうです。「こんなに大変な事故があったのに、なぜ日本人はおとなしく黙っているのですか?」と。吉澤さんは、答えに大変困ったけれど、こう考えたそうです。「日本人は忘れやすく、『ま、いっか』と妥協してしまうのだろう」と。
福島には10基の原子力発電所があり、発電された電力は、その大半が関東に送られていました。多くの電力を消費し続ける都会の暮らしに、吉澤さんは福島の教訓が忘れ去られているのではないかという危機感を覚えます。そこで、吉澤さんは、渋谷のスクランブル交差点での街頭演説を始め、日本各地で、教訓を忘れないようメッセージを送り続けています。
吉澤さんは、エネルギーの問題を、人生のテーマとして一生考え続けていきたい。牛を生かし続けながら、命とどう向き合うのか、子どもたちのためにも考え続けていきたいとのことでした。
同日2016年1月29日(金曜日)の午後、吉澤さんは、ESDカフェに先立って、岡山市立京山中学校でも講演をなさったそうです。生徒たちは、事前学習で希望の牧場・ふくしまのドキュメンタリー映像を見たり、絵本を読んだりして自分たちの考えを深めていたそうで、その日、吉澤さんのお話を聴いて、いろいろなことを心に刻んだようです。講演会を担当された京山中学校の先生が、中学生の感想をいくつか紹介してくださいました。
ある中学生は、吉澤さんの行動力や信念に驚きを覚える一方で、牛を生かしておくという行動に疑問を感じたそうです。「『おれは牛飼いだから、牛たちを見捨てない!』という発言は、きれいごとに聞こえるところもある。売れない牛を生かしていくことの『意味なんて分からない、でもこれから新しい意味をつくっていくんだ』という発言に対して、今、していることに意味がなければ、それこそ意味がないのではないか。『おれは牛飼いだから』と言われても、結局何が言いたいのか分からない。自分は吉澤さんの考えとはちがう。だからこそもっといろいろな考え方を聴いて、本当に自分自身はどう思っているのかを考えていきたい」と感想を書いていたそうです。
他の生徒は、「『希望は他人に与えられるものではなく、自分でつくるもの』という吉澤さんの言葉が心に残った。吉澤さんが自分の意見を主張するのは、自分に何かしらの考え方があるから。売れない牛を生かすのも、自分に信念があるからだと思う。自分もこれから生活していく上で、何か疑問があったらそれを突き詰め、自分の考えを持ち、自分の意見を言って、そして行動する。そのようなことができる人間になりたいと思います」という感想を残しています。
多様な意見の中から自分だけではなく社会にとっての最善の選択肢を見つけ出し、行動できる人を育てること。吉澤さんの講演は、ESDが目指す人づくりの一助になったようです。
ESDカフェの参加者からは、吉澤さんのお話を受けて、次のような感想がありました。
岡山市市民協働局ESD推進課 小西・流尾
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