岡山市立少年自然の家は、岡山市北区日応寺にある青少年教育施設です。平成23年度から、この施設の指定管理業務を行っているのが「観空産業株式会社」であり、岡山桃太郎空港の付近にある桃園・マスカット園・畑などで、農業に関する事業を展開しています。
昨今、特に市街地に居住する人たちは、大地の恵みを育む農業に対しての関心が薄れてきており、農業体験の機会も減少しているのが現状です。
そのような状況の中で、少しでも農業に興味を持つ家族に対して、一年間を通して農業体験(農作業)を継続して行ってもらうことにより、農業に対する関心を高め、農作物を育て収穫する喜びを味わってもらいたい、という願いから、岡山市立少年自然の家の主催事業として、平成24年度に「ファミリー農園クラブ」が発足しました。そして、併せて「岡山ESDプロジェクト」に参画する運びとなりました。ちなみに、SDGsに関連して、私たちが目標としているのは、2の「飢餓をゼロに」であり、ターゲットは、2.1と2.4です。
1年目は14家族50名の皆さんに参加していただきました。「観空産業株式会社」の畑を活動拠点として「野菜や桃、マスカット等の収穫体験」を中心に活動を組みました。年に5回足を運んでいただき、普段の生活の中ではなかなか体験できない「桃の袋かけ」「桃の収穫」「マスカットの収穫」「玉ネギの定植」などの活動に参加していただくとともに、畑で栽培している様々な野菜や果物を収穫して、お土産としてお持ち帰りいただきました。
また、昼食時には、少年自然の家の野外炊事場に設置してあるかまどを利用して「カレー」「牛丼」「焼きそば」「豚汁」などの野外炊事に取り組んでいただいたり、「餅つき」に挑戦していただいたりしました。桃とマスカットの収穫は、参加者にとって大変魅力的な活動であり、2年目以降のファミリー農園クラブの活動の目玉となっていきます。
この年は初年度ということもあり、準備から活動に至るまで、少年自然の家の職員や講師の方、そしてボランティアスタッフがリードしながら実施しましたが、全活動終了後に実施したアンケートの中で、参加者から「準備段階から参加してクラブの役に立ちたい。」という意見をいただいたことから、2年目以降、新たな取り組みを加えることになります。
2年目からのファミリー農園クラブの歩みについて、その経緯をトピック的に紹介しましょう。
野菜や果物の収穫体験を主とした活動を実施していましたが、参加者の主体的な活動を目指すべく、畑を「ファミリースペース」として参加家族に提供し、年間通して野菜作りや収穫に取り組めるようにしました。初めて経験する家族がほとんどであったため、なかなか思うように栽培することができない家族もありましたが、自分たちの畑で収穫した野菜を大事に持ち帰る姿が大変印象的でした。
参加者に「食」について考えていただくことと、参加家族同士の交流と人間関係づくりを目指して、新たに「火育」の観点を織り込んだ「薪を使って煮炊きをする野外炊事」のさらなる充実を目指すことにしました。どの家族も、繰り返すうちに、薪を使った火の扱いがどんどん上手になっていきました。
この年には、参加者の中に繰り返して参加する、いわゆる「リピーター」の家族が目立つようになりました。このことにより、初めて参加する家族が、リピーターの家族にアドバイスをしてもらいながら野菜作りに取り組むといった光景が展開されるようになりました。
一方、初年度から実施してきて人気度の高かった「餅つき」ですが、このころから「ノロウィルス」の影響が世間で大きく取り上げられるようになり、衛生上の問題からやむなく中止することにしました。この年も、参加家族の約半数をリピーターが占めており、初めて参加する家族の良き手本となって活動してくださいました。それもあってか、年5回のクラブ実施の日だけでなく、それ以外の日にもたびたび畑に足を運び、草を抜いたり水やりをしたりする家族が目立つようになりました。クラブ会員相互にとって、大変良い刺激となったことは間違いありません。中止した餅つきの代わりに「七輪」を使った活動(せんべい焼き)を実施し、好評を得ました。
家族で協力して農作業や収穫体験をすることで、自然に会話がはずみ、微笑ましい光景がふんだんに見られました。最終回である5回目のクラブ実施日に、会員同士の交流活動として「お楽しみ会」(簡単なゲーム)や自然物を使った創作活動を取り入れてみました。ファミリースペース活動も収穫体験も一つ一つが充実し、「ファミリー農園クラブ」の安定期に入った感がありました。
猛威をふるう「新型コロナウイルス感染症」の拡大を受けて、私たちの「ファミリー農園クラブ」も甚大な影響を受けました。
まず、令和2年度には、3密を避ける必要から、5回のクラブ実施日には、参加家族に一堂に集まっていただくことをやめました。そのため「野外炊事」も、中止せざるを得なくなりました。また、ファミリースペースでの活動や収穫体験も、家族ごとの活動時間をずらして設定するなどの工夫を加えることでなんとか成立するという厳しい状況が続きました。家族同士の交流活動が組めないのが、最も残念な点でした。
ファミリー農園クラブが発足して10年目を迎える令和3年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策として、参加家族数を例年の約半数(10家族)に絞り込むとともに、昨年度同様、家族ごとの活動時間をずらして設定して活動を始めようとしているところです。
いつまでこのような状況が続くのか、今の段階では、長いトンネルを抜け出せる見通しは持てていませんが、ワクチンの接種が進んで社会全体が集団免疫を獲得し、日常が戻った運びには、再びファミリー農園クラブが本来の活発な活動を始めることができるものと、期待してやみません。
2016年 岡山市立小学校を定年退職の後、岡山市立少年自然の家の指定管理業務にあたっている「観空産業株式会社」に入社する。
以来、少年自然の家の次長として3年間、所長として2年間勤務し、現在に至る。
元々、身体を動かすことが大好きで、若い指導員に混じって、子どもたちや家族が歩く山の中の活動路点検(約2時間)にもしばしば出かける。
野菜や果物の収穫体験は家族の絆づくりになり、特に子どもたちにとってよい経験になりますね。これまで続けてこられたことは素晴らしいと思いました。
コロナによってなかなか開催できないとのことですが、楽しみが少ない子どもたちのためにも、感染対策や人数制限などをして何とか開催できる日が来るのを願っています。