「もういいかい。」
「まあだだよ。」
ねこのおかあさんは、こたつの上にねていて、そんな声を聞きました。
どこでしょう。
たれでしょう。
となりのおうちで、子ねこがあそんでいるのでしょうか。それにしては、何だか近いような気がしました。
家の中のように思われました。
いいえ、二三日前からいなくなった子ねこのような気がしたのです。
でも、その子ねこのみけは、あんまりふざけていて、みぞへ落ちて死にました。そして、お庭の八つ手の木の下にうめられました。
だからそんなはずはありません。それはまったく気のせいです。もう、そんなことを気にしないで、もっといねむりいたしましょう。
でも、あれ。
「もういいかい。」
「まあだだよ。」
はっきり聞えて来ました。
「だあれ。」
親ねこは、あたまを上げ、耳を立て、声のする方へ向いて、そういうようになきました。たれのへんじもありません。やっぱりやっぱり気のせいでした。
みけがどこかであそんでいるように思われたり、みんなおなじ気のせいでした。でも、親ねこは、ついいって見たくなりました。
「みけや、おかあさんをからかってはいけないよ。おかあさんはほんとうにしますからね。」
声は、それきりやみました。親ねこは、こたつの上で目をつぶりました。
何十分たったでしょうか。それとも、何時間たったでしょうか。親ねこは、やはり子ねこの声を待っていました。
でも、もう、声がしなくなったのですもの。どうすることも出来ません。やっぱり声のしないのもさびしいものです。それで、親ねこは小さい声で、いってみました。
「みけさん、どうしたの。かくれんぼはやめたのですか。」
といってみました。
「かわいそうなことをしました。せっかく家のどこかに来て、一人であそんでいたものを。ついしかったばかりにみけはどこかへ行ってしまった。」
親ねこは、そんなことを思いました。それで、また、小さい声でないてみました。
「もういいかい。」
と、すぐにみけねこの子ねこらしい、かわいい声が聞えて来ました。
「まあだだよ。」
それで、親ねこは、聞いてみました。
「みけちゃん、まだいるの。」
けれども、これにはへんじがありません。それでまた、
「もういいかい。」
とないてみますと、
「まあだだよ。」
遠くで小さいへんじです。
親ねこは立ちあがりました。どこにいるのでしょう。
となりのおへやでしょうか。
茶の間のおしいれでしょうか。
おざしきのつくえの下でしょうか。
「もういいかい。」
そうないては、耳をすましました。その度に、声が聞えました。
「まあだだよ。」
「まあだだよ。」
どことも、けんとうがつきません。おしいれの中のようでもあるし、ふろばの方のようでもあるし。
ねこのおかあさんは、おしいれの前でも呼びました。
ふろばの戸口でもなきました。
おざしきのまん中でも呼びました。
家の外に出て、まわりを一まわりしながらもなきました。
「もういいかい。」
「もういいかい。」
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