三平が学校から帰って来ると、兄の善太が門の前でニコニコ笑った居りました。
「どうしたの。」
三平がききました。
「いいことだよ。」
善太が言いました。
「どんないいこと。」
三平がたずねますと、
「縁側へ行って見ろ。」
そこで三平はカバンを置くと、縁側へかけて行きました。バタバタバタバタ、行かない前から、こんな音が聞えて来ました。
「小鳥だな。」
三平は言ったのですが、全くその通りでした。縁側の鴨居から鳥かごがぶら下げてありまして、中に一羽の小鳥が居り、それがバタバタあばれていました。と、そこへ、もう一匹小さなミミズを握って、善太がやって来ました。
「今日ね、お宮の森に行くとき、この鳥がバタバタッ、バタバタッてやってるのさ、四五メートル飛んでは休み、五、六メートル飛んでは下りしているのさ。まだかえったばかりの子供鳥らしいんだ。丁度魚をとる網を持ってたから、そうっと行って、サッとふせちゃった。いい鳥だろう。これから二人で飼ってやろうよ。」
善太は言うのでした。けれども、この時、三平は心配になりました。だって、一月ばかり前のことでした。みんなとラッパを吹いてお宮の森に出かけて行きますと、森の樫の木に、枝にまきついた蛇を見つけました。蛇は枝を上にスルスルスルスルと登っていたのです。そしてみんなで気をつけて見ますと、その枝の上の方に、木が叉になったところに小鳥の巣が一つ乗っかっていました。その巣の中に二羽の小鳥がお客様に行ったように、いや、自動車に乗ってお客様に行くように、おとなしく列んで坐って居りました。下から、その小さな二つの頭が見えたのです。きっと、これは小鳥のお父さんとお母さんで、幾つかの小さな卵をあたためていたのです。
「小鳥、小鳥。」
みんな大声に呼んだのです。その時、蛇はその小鳥をねらって木の上に登っていたのです。それがわかったので、みんなは直ぐもう大騒ぎをはじめました。
トチ、チテ、トッ。
一人がラッパを吹くと他の十人もの子供達は手に手に小石を拾ってパラパラパラパラと投げつけました。
「こらっ蛇、大蛇、ドロボウ蛇。」
と、どなるものもありました。その内、二三人のものが家へ走って行って、長い物ほし竿をかついで来ました。それで下から蛇をつついて、やっと、小鳥の巣の近くから蛇を下につつき落しました。その時、その二羽の小鳥のお父さんとお母さんが、どんなに心配そうに、巣の近くの枝から枝へバタバタと飛び飛びして騒いだことでしょう。三平には今それが目に見えるようです。そして、この小鳥はその時の卵がかえったものにちがいありません。そこで善太に言いました。
「兄ちゃん、この鳥、僕にくれない。」
「どうしてさ。仲間にすればいいじゃないか。」
「ウウン、僕、ほしいんだ。」
「どうすんだい。」
「だってかわいそうだもの。」
「だからさ、どうするんだい。」
しかし、また元のお宮の森へ持ってって、親鳥のいる巣のそばに放してやるとは言えません。そこで言いました。
「僕のナイフ、兄ちゃんにあげるからさ。この鳥とかえっこしてくれない。」
「そうだなあ。」
「そうしてよ。」
「していいな。」
「じゃもうきめたッ。」
それで三平は直ぐナイフをとって来ました。それを兄ちゃんにやりました。やると直ぐ鳥かごを鴨居からはずして、外に持って出て行きました。金ちゃん、孝ちゃん、二郎くん、みんなのところへ行ったのです。蛇退治をした十人からの友達も集って来ました。そしてお宮へ行くと、小鳥の巣のある樫の木の下に小鳥の入ったそのかごをおいて、お宮のかげへかくれて見ていました。
チッ チチチチ。
間もなく、こういう小鳥の声が木の上から聞えて来ました。上の枝にもう親鳥が来てとまっていました。かごの中の子供の鳥も、これにつれて、チチチチと鳴きはじめました。と、もう親鳥はかごの上に下りて来て、バタバタバタバタ、地の上一メートルばかりのところを羽をひろげて飛んで見せました。これにつれて、かごの中の鳥も飛びたそうにバタバタしました。
「ね、出してやろうよ。」
金ちゃんが言ったので、三平は出て行ってかごの口を開けて鳥を外に放してやりました。
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