ぼくはたねをまいた。いえのまえのはたけのはしに、五つぶのかきのたねをまいた。三メートルずつあいだをあけて、一れつにまいた。
きょねんおかあさんからもらった大きなほしがきのたねを、ぼくはだいじにとっておいたんだ。それは七つぶあった。だけども、よくみたらその二つぶはぼくのかじったはがたがついていた。だから、おしかったけれども、それはすてた。
ぼくはうれしかった。五ほんのぼうをみつけてきて、まいたたねのそばへたてておいた。「ここはぼくのたいせつなたねがまいてある。だれもとってはなりません。」というしるしなんだ。そのときは六がつのはじめだった。よくあめがふってつちがいいころあいにしめっていた。たねはそのすいぶんをすって、めをだし、みきをのばし、そして大きくするんだね。お日さまも空でひかっていた。それがつちをあたためるもので、つちからゆげがたっていた。このお日さまのひかりもくさや木にはたいせつなんだ。先生がいつかいわれていた。たねはやはりお日さまのひかりもすうんだね。そしてめをだし、はをだし、みきをのばしするんだ。そして花がさき、みがなるんだ。みがなったら、もうしめたもんだ。
しかしいくつくらいなるだろう。一ぽんの木にひゃくずつなったとしたらみんなで五ひゃくだ。二ひゃくずつだと、せんになる。せんになったら、その五ひゃくをほしがきにして、あとの五ひゃくをうちじゅうでたべるとすれば、ひとり五十ずつにすれば、二ひゃく五十ものこる。それをぼくの友だちやきんじょのいえなどにあげるとすれば、十ずつあげても、二十五けんにあげられる。けんちゃん、まっちゃん、たろうさん、みよさん、いちろうくん。ぼくはかぞえてみた。とてもたのしみだった。それで、まいたたねのそばにたって、
「はやくめをだせ、かきのたね。ださんと、はさみでつみきるぞ。」
そういってみた。だれかきいていると、はずかしいから小さいこえでいった。一ぽんごとに、そういってあるいたたねはつちの中でじっとぼくのこえをきいているようだった。きっと、ぼくのことばがわかったんだ。
「だします。だします。はやくめをだします。」
そういっていたかもしれない。だけど、ぼくにはかきのたねのことばはわからないから、なんにもきこえなかった。
そのときぼくがみたら、ぼくんちのびわの木にすずめが四五わいて、ばたばたはねのおとをたててちっちとないていた。すずめはきっと、
「あのこども、なにをしているのいるんだろう。」
そうはなしあっているのだ。そしてぼくがいなくなったら、ここへおりてきて、つちをほじくりかえすんだ。
「しっ、しっ。」
そういって、手をあげて、すずめをおってやった。すずめはばたばたにげていった。すると、こんどは、ねこがのそのそあるいてきた。ぼくんちのみけだ。みけもぼくのほうをみてたちどまり、ふしぎそうなかおをしてしばらくじっとしていた。
「三ろうさん、なにしてんだろう。」
みけもそうおもったらしい。でも、ねこはすずめよりかしこいからねしらんかおして、ぼくのほうにやってきて、たねのまいてあるつちのそばをほりだした。ぼくはおどろいて、
「こらっ、なぜそこをほる。たいせつなたねがまいてあるんじゃないか。」
そういってやった。するとみけは四五メートルはなれたところへいき、そこをほって、うんこをした。きたないやつだ。
しばらくすると、こんどはちょうがとんできた。しろいのと、きいろいのと、二つがひらひら、もつれるようになって、とんできた。しかしぼくはほうっておいた。ちょうはたねなんかほらないし、たべもしないから、しんぱいない。でも、はがでたら、そこへけむしをうみつけるからきをつけなければね。
つぎに、とんぼがとんできた。とんぼもすてておいた。これはわるいむしをとるえきちゅうだから、たいせつにしたほうがいい。それでとんぼはぼうの上にとまって、だいぶんやすんでから、たっていった。そのあと、なにもこなかった。うん、けんちゃんちのポチがかけてきて、ぼくのかおをみて、すぐまたかけてってしまった。それきりだ。
あとひさしくなにもこなかったので、ぼくは友だちのところへいくことにした。おみやへいってみたら、みんなあそんでいた。けんちゃん、まっちゃん、たろうさん、一ろうくんなどいた。ぼくは、
「おれな、いま、かきのたねをまいて、きたんだ。みにこないか。」
といった。
「うん、みせてくれ。」
けんちゃんがいうと、みんなぼくについてきた。ぼくは、たけのぼうのたててあるところに、みんなをつれてきた。たろうさんは、ぼうをみて、
「五つか、五ほんまいたんだね。」
といった。一ろうくんは、
「なあんだ。めもでていないんじゃないか。」
といった。まっちゃんは、
「これにみがなるの。八年もかかるんだぞ。ぼくたちが十六になって、ちゅうがくをそつぎょうするころ、やっとみがなるんだ。」
そういった。すると、一ろうくんは、
「そんなさきのさきのこと、なにひとつわかりゃしないよ。わからないことをするの、かしこいことじゃないね。」
そういって、ぼくのたねの上をかた足をあげて、ふみつけるまねをした。ぼくははらがたって、
「なにするんだっ。」
そういって、一ろくんをつきとばした。一ろうくんは、
「おおばかやろうっ。」
といって、ぼくにかかってきた。ふたりはそこでとっくみあいをやった。みんながわけてくれたからどちらもなかずにすんだけれども、ぼくはとてもくやしかった。一ろうくんは、
「おれ、かえろうっ。」
と、かえっていった。みんなもぞろぞろかえった。そのあと、きたのほうをみたら、大きなくものみねがたっていて、ぎん色にひかっていた。ぼくは十六になって、ちゅうがくをそつぎょうしたとき、五ほんの大きなかきの木の下で、そうだ、なんぜんなんびゃくとなったかきのみの下であのようなぎん色のにゅうどうぐもをみることをかんがえながら、いつまでもたっていた。
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