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−第12回(昭和55年度)− |
老婆は傷ついたテープレコーダーの様に 同じ言葉ばかりを繰返して話す うなづいて上つらだけで聞きながら フト窓の外を見れば サルスベリの桜色の泡のかたまりが 空へ向けて一斉に手を振っている シャボンの泡となって翔び立つ 接点の空は映りの良い 磨き抜いた水色 心の中がそこへ駆け出して行き 私は人魚になり 空のプールで 水飛沫をあげて力一杯泳ぐ 目の前で首を斜めにした 老婆の不審そうな顔に 黙って 何時もの様にうなづいてみせた |
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