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第40回(平成20年度) |
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初恋は酸つぱいのかと孫の問ふサッカー少年十一歳の夏 |
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難波 美智恵 |
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明けやらぬ畑に出荷の茄子をとる鋏ふたつの音きびきびと |
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三木 安子 |
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雲ひとつない蒼天を見ていたり君への想い遥かに届け |
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藤原 努 |
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闇夜の道小さき手がギュッと握り返しママと同じあつたかいといふ |
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田村 千穂 |
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疲れ切った顔で自転車仕舞う孫に好きなみそ汁一品増やす |
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山本 春子 |
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第39回(平成19年度) |
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夏休み近づきたれば朝顔の鉢抱き児らは家路に向かう |
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岸野 洋介 |
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大き実は豊後ちさきは信濃など古里の家の梅も熟るるや |
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中塚 節子 |
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梅雨晴の淡青の空に消えゆけり雲のちぎれて怒りのちぎれて |
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藤井 玉子 |
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吾が妻の寝押しという智慧働いて孫のズボンのきつちり折り目 |
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尾形 真吾 |
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「ありがとう」かもしれないと夫の最期の聞き取れなかったことばを思う |
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唐川 幹代 |
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第38回(平成18年度) |
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かたつむり全長三粍大志ありこの大木を今登り初む |
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杏 香 |
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子どもらの歓声失せたる校庭に枇杷の実あまた太る八月 |
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武田 昌子 |
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稲作を廃めたる田なれど見廻りてジャンボタニシを掬ひあげゆく |
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鈴木 武重 |
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明日は発つ枕辺に置く遍路の荷夫の遺詠の微笑んで見ゆ |
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伊藤 寿子 |
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たくましく育ちし犬がおうな吾の顔見上げてはゆつくり歩む |
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新 光子 |
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第37回(平成17年度) |
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吾が米寿の記念に建てたるアパートに新婚さんの新車が並ぶ |
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新 光子 |
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ゆったりと朝の陽浴びて葉をゆらす収穫すみし桃のよろこび |
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野上 順子 |
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久々の氷枕は懐かしく臥せば故郷の波の音する |
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篠原 和子 |
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母の日にもらひしピンクのスニーカー風薫る街を自在に歩く |
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前原 和子 |
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燃えつき症候群を言ふ友ようらじや祭りに跳ねてみないか |
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長岡 一也 |
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第36回(平成16年度) |
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クロールの息継ぎのこつ会得せし孫は彼方の島見つめおり |
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岸野 洋介 |
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一本の葦に まる風情して携帯電話に向かう若者 |
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三浦 尚子 |
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大丈夫そんなにがんばらなくていいさふらん色の夕空を見よ |
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藤井 玉子 |
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妻逝きてはや九回目の盆迎へ似合ひし帽子仏壇に掛く |
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山本 弥寿夫 |
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少年夢二の遊びし寺は静まりてゆりかごのやうなあぢさゐたわわ |
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渡辺 和美 |
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第35回(平成15年度) |
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国策に沿ひて桃の木切る父が「お前と同い年ぞ」と言ひき |
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長岡 すみえ |
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廃校の運動場の盆踊り小さき輪のまゝ終りとなりぬ |
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米林 克子 |
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淋しいとは言はぬ幼子の肩を抱く黙ってしばらく抱きしめてやる |
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藤井 玉子 |
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コスモスに風の跡見ゆ駅に降り君待つときの五分が長い |
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寺尾 敬子 |
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万歳をしたをさなごの掌に風がまあるくしばしとどまる |
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森安 千代子 |
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第34回(平成14年度) |
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祖母の手も母の手も又大きかりき大きさのみ似てわが手不器用 |
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田中 幸江 |
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背戸の 向ひの とけぢめなく鳴きつぐ村に生るるみどり児 |
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福光 繁子 |
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父逝きて荒れたるままの田に生えし木に来て蝉の長々と鳴く |
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岩本 喜代子 |
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て |
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白桃を |
掌 |
に置き想ふ産みし子をはじめて抱きし杳きぬくもり |
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冨士谷 三重子 |
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霧生れて山の作小屋灯をつけぬこのあたりより母のふるさと |
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平槙 トシ子 |
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第33回(平成13年度) |
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惚けたる人たちの中に母を置き帰る車中に聞くジョン・レノン |
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渡辺 和美 |
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あ |
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ひとひとり葬りし昼大いなる積乱雲 |
生 |
れし海を見に来つ |
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影山 美佐子 |
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ストレスの塊りみたいなキャベツ持ちわれは佇ちをり野菜売場に |
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青井 輝代子 |
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野っ原のここに花咲く三白草別の私のやうなる白き葉 |
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勝瑞 夫己子 |
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廃業となりしを告ぐるはり紙が雨をうけつつ未だ破れず |
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岩崎 政弘 |
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第32回(平成12年度) |
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ひとの心の裏も見たる日クリオネの泳ぐさまなど思ひて眠る |
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藤井 玉子 |
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出征して帰らぬ人へ太き指揃へて祈る八月の父 |
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光岡 早苗 |
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ひと匙の白桃ふふみしみどり児を抱けば蜜のかそか匂へり |
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安藤 兼子 |
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改築中のわが屋根も濡れゐむ土砂降りと客に聞きつつ地階に働く |
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森安 千代子 |
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秋空に名前の一字書きし子は消す真似をして次の字書けり |
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佐藤 恭子 |
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第31回(平成11年度) |
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晴れ舞台無き三十年余の地方記者終えて西日の駅に降り立つ |
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千神 幸雄 |
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花びらの落ちつくしたる花の蘂言ひ残したることばにも似る |
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藤井 玉子 |
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しんかんと夜半の病棟空気澄み詰所のあたり白衣が動く |
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冨士谷 三重子 |
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電話にて聞きたる声のイメージより全く異なる客の現る |
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藤井 寿恵子 |
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齢きけば「米寿ですぞな」五月晴れに草引く媼のこぼるる笑顔 |
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小林 輝子 |
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第30回(平成10年度) |
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店の準備今朝もととのひ緞帳のやうにシャッター押し上げてゐつ |
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藤井 寿恵子 |
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大金を預ける婦人の横に立ち僅かな年金受取りてをり |
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鍋谷 栄 |
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白き波うちてあふるる鉋くづ遠き林の香を漂はす |
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黒田 道子 |
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老人保険証忘れて払ひしその額の多さに医療の重きを知れり |
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貝畑 差代子 |
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飛ばしたる紙飛行機は庭に落ち風にふるへて紙に戻れり |
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鳥越 伊津子 |
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第29回(平成9年度) |
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北よりの便りは今年も梟の子育て真っ最中と追伸にあり |
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同前 正子 |
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風吹けば里ことごとく蒼く見ゆ雨後の水無月たそがるる頃 |
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西?ア 淑子 |
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今日は今日明日のことは考えず朝餉のパンをこんがりと焼く |
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難波 栄 |
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ひっきりなし行き交ふ自動車左右に分け自動のドアはゆっくり開く |
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江見 三木三 |
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両の手に一杯の茄子胸に抱けばまひるの暑さ身に伝ひ来る |
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難波 百子 |
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第28回(平成8年度) |
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坂下りくる自転車凹みにバウンドし荷台の幼の唄声止まる |
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同前 正子 |
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なるやうにしかならないと思ひ直しそらまめの莢をほきほきとむく |
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藤井 玉子 |
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日焼せる女ピアスを揺らしつつ工事現場に電気ドリル持つ |
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西山 絹子 |
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つま |
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五グラムのゼラチン計りゐる |
夫 |
の思ひつめたるやうな眼差し |
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藤井 寿恵子 |
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若き医師の「異常なし」とふ言葉にて視界俄かに広がる思ひ |
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岸 亀子 |
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第27回(平成7年度) |
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う た |
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この客をひそかに |
短歌 |
に詠みしことも含めて礼を丁寧に言ふ |
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藤井 寿恵子 |
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さっぱりと剪定されたる木の枝の忘れし帽子が風に回れる |
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同前 正子 |
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真夏陽を背に受けつつ工事夫は声高く上げ電柱登る |
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鳥越 伊津子 |
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すたすたと現れこずや逝きし子が古りたる車庫の百日紅の下に |
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藤田 秋子 |
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さりげなく最終講義を終へて仰ぐ目にはるかなる冬の浮雲 |
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余頃 政敏 |
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第26回(平成6年度) |
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息荒き夫を抱きて切なかり残りし生の日数思ひて |
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大橋 恵美子 |
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孫の靴購はむとゆく道の辺に若竹伸びつつ天を指しをり |
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小林 輝子 |
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温かき医師の言葉に励まされ背すぢ伸ばして家路を辿る |
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池田 益子 |
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茅葺きの寺には人の影なくて袈裟の赤きが軒に揺れゐる |
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同前 正子 |
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味噌を作り離り住む子に送らむと師走のひと日大豆をこなす |
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近藤 安枝 |
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第25回(平成5年度) |
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掌もて包むごとく静かにもぐ桃が紙の袋の中より匂ふ |
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中尾 溥子 |
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こ ぞ |
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去年 |
は飴を持ちゐし水子この年はアンパンマンの玩具を抱く |
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池田 益子 |
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炎天に流るる汗をぬぐひつつ作業現場にスコップ握る |
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野崎 みつゑ |
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間違ひの電話なりともかかり来ればうれしと云ひし孤老を思ふ |
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戸川 治子 |
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待ちかねし友の来ればわが家の厨は客間となりて賑はふ |
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青井 慶子 |
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第24回(平成4年度) |
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夫も子も起きくる気配にふっくらと焼くオムレツは向日葵の色 |
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藤井 玉子 |
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切れあぢの鋭き刃にて葱きざむ暖冬と風邪の因果断つごと |
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冨士谷 三重子 |
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この春は帰省できぬと告げし子の雪焼けの顔玄関にあり |
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藤原 幸子 |
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冷めんの海苔がまつはりつく箸をしごきし瞬間見られてしまひぬ |
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同前 正子 |
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新しい苗字になる日近づいて今の名前の生き様を問う |
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飯田 礼子 |
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第23回(平成3年度) |
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手話交はし顔いっぱいに笑ひ合ふ少女らを緑の風が撫でゆく |
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戸川 治子 |
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歌一首思ひつきたりやをら立ち夜半の机上に灯りをともす |
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難波 玉子 |
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血糖値の高き夫にと昼さがり火を細めつつ大豆煮てをり |
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池田 益子 |
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洗ひたる長き髪シーツに波うたせ人魚のごとく孫は眠れる |
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同前 正子 |
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姪に振られ雨に降られて日曜を行き場なくせる夫は昼寝す |
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藤井 玉子 |
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第22回(平成2年度) |
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向日葵の種のごとくにテニス焼けしたる息子が帰省してきぬ |
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藤井 玉子 |
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色紙をくるりくるりと回し切る亜季の小さき手の持つリズム |
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戸川 治子 |
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過疎進む山の校舎は閉ざされてゲートボールの老らさざめく |
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池田 益子 |
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雨上りの採石場の山の肌西陽は断層をあざやかに見す |
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同前 正子 |
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連れ添いて古りし木綿の肌ざわり心静かに老妻と在り |
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三宅 武夫 |
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第21回(平成元年度) |
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金属音きしませながら移動するユンボは頭を神妙に垂れ |
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上田 智恵子 |
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穂芒の撫でるがごとき感触に手術開始を目かくしに知る |
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藤田 公恵 |
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曇り日の白木蓮重く咲き盛り極みののちの翳り滲むも |
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冨士谷 三重子 |
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今宵とも知れぬ命に水槽を活魚ら泳ぐ値札をつけて |
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才本 秋春 |
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並び立つ水子地蔵の風ぐるま廻るを幼がしきりにねだる |
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池田 益子 |
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第20回(昭和63年度) |
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拓かれし山の霊園に林立の墓は陽炎になべてゆれゐる |
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同前 正子 |
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体調のやや戻りしかいつになく夫が口笛吹きをり今朝は |
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池田 益子 |
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老いて孤りの思ひ沈める水鉢にヒヤシンスは白き根を伸ばしゆく |
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小松 八重子 |
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優しさが身上の吾子が商談に意外に厳しき行員の顔 |
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池本 満喜子 |
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郵便受囲みて朝顔咲きてをり楽しき便りの今日は届かむ |
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磯辺 美智子 |
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第19回(昭和62年度) |
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回向終えて下山のあとは冷ゆらむか母の野位牌秋の陽におく |
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才本 秋春 |
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夕菅の淡き黄の花一輪を一夜の花ぞと摘みて賜へり |
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大橋 晋之介 |
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孫達の帰りし後に残りゐる笛を吹きつつ掃除機かけぬ |
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立田 ゆり枝 |
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試歩なすと附添ひの人の肩に置く我の右手のかすかにふるふ |
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赤木 子 |
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かげろふの骸重なる夕闇にはかなき命われも持ちをり |
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片岡 定子 |
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第18回(昭和61年度) |
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春 の声聴きとめて佇つ峠老いの背筋を伸し合いたり |
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山河 敏秀 |
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四百年を経て甦りしとふ濠の蓮話題となりて今日宗治忌 |
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岩田 絢子 |
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山茶花の散りて地を染む城跡に辞世の歌碑を濡らす雨降る |
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坪井 伊志子 |
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未練はない未練はないとみずからに語りつつふっと悲しみがくる |
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綱島 信一 |
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初めての外国旅行へ子は発ちつ読みさしの本をベッドに置きて |
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磯辺 美智子 |
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第17回(昭和60年度) |
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亡夫に似し顔あるらむか崖に座す五百羅漢に夕日射しゐる |
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中村 益代 |
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愚ならむは賢たらむより難しといふ肯ふがにも額のモナリザ |
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赤木 祗子 |
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梅雨晴れの宇治の茶畠みづみづと起伏保ちて視野に展くる |
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池田 益子 |
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言はざりし残りの言葉が本音らししきりに水飲む人と真向ふ |
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磯辺 美智子 |
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北の海羽溥き越ゆるかたちにて売場に透けるガラスのスワン |
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宮本 稔子 |
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第16回(昭和59年度) |
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そそりたつ山のくぼみに家ありて隠れ住みにき平家の落人 |
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島村 次女 |
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人形師の形見の机下に前掛けが今はづされたる如く置かるる |
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田辺 宏子 |
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くだ |
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堤防の石段 |
下り |
漁夫の妻寄せ来る水に魚さばきをり |
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仁城 万寿子 |
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白壁の変らぬ町と思へども今朝を咲きたる紺の朝顔 |
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鈴木 武重 |
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オホーツクの霧晴れながら断崖に耳そばだてて立つ放れ馬 |
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高塚 たか子 |
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第15回(昭和58年度) |
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白鷺の飛び交う川のせせらぎに江戸の面影残す足守 |
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坂田 志げ子 |
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夕映のいろ染まりたる入海に布石のごとく海苔粗朶光る |
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池田 益子 |
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教室のテラスの鉢に五、六つぶ播きし給食の西瓜生え初む |
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花房 富恵 |
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空暗くそよげる木々を視野としてぬるくなりたるコーヒーすする |
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尾崎 綾子 |
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改修の杭うたれたる砂川の藪鴬をこころして聞く |
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山河 翆明 |
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第14回(昭和57年度) |
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調理師を退きて二十年時折に夫は包丁を出してみつむる |
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徳永 秋子 |
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五百羅漢怒れる顔は父に似て眼を閉ぢゐますは母のごとしも |
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赤木 祇子 |
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青き海と外国船と坂道の神戸にひとり吾子残し来ぬ |
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尾崎 綾子 |
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満月の残駭白き一ひらとなりて看取りの長き日始まる |
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福森 光恵 |
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藺処の名残りとどめて一株のい草は今も庭に絶やさず |
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貝原 都 |
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第13回(昭和56年度) |
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雪解けの水流れ入る尾瀬沼に終の旅路の水芭蕉見る |
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小田 逸美 |
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静かなる心乱せしは君なりき遅咲きの薔薇炎天に燃ゆ |
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志乃 かずこ |
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午后の茶は少し気取りてゆるやかに飲むものならん君待つ茶房に |
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尾崎 綾子 |
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今日もまた登校拒否児の席あきて胸痛めつつ割算教ふ |
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田中 一子 |
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炎熱の砂丘歩けば影さえも灼けて重たく埋もれてゆく |
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福森 光恵 |
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第12回(昭和55年度) |
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年毎に老いゆく我れを持てあます漬物石は日毎に重し |
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久山 操 |
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亀の子に話しかけつつ腹這いになりて幼もともに這ひおり |
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金光 絹江 |
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さりげなく写すレンズに邪しまの性を見透す眼光れり |
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尾形 真吾 |
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主婦われに自負するものの一つあり二十年手がけし糠漬の床 |
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岩田 絢子 |
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死期せまる患者よりとる血液を何のためにと看護婦にきく |
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井原 まつ枝 |
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第11回(昭和54年度) |
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巣立つ程の声となりたる子燕が時折り飛びて神棚に来る |
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藤原 文子 |
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さまざまの瓶を並べて妹が友にも頒つ糸瓜水採る |
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田上 あきら |
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身の軟き蟹と厭へる子の前に黙し食みつつ悲しくなりぬ |
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岸本 八重子 |
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生まれ来し世なれば生きよと病む孫を抱きて吾は幾度も言ふ |
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徳永 秋子 |
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如月の窓辺に射しくる朝の陽にカキ餅にふる粉かがやきつ |
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尾形 真吾 |
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第10回(昭和53年度) |
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肌寒き町角の屋台は夕暮れて焼きいかのたれはかわきてのこり |
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竹岡 伸子 |
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休耕の田草抜きゆく手許より稲によろしき泥の沸く音 |
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練苧 許子 |
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魚の腹白きを開く尖り見てにはかに寒き宵街いそぐ |
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児新 真砂子 |
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手につける握り飯つぶはじしきを渓底透きて山女魚らより来 |
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小林 道夫 |
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傍らに鳥かご置きて日もすがら臥床に小さし足萎への母 |
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才本 秋春 |