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−第12回(昭和55年度)− |
とりあえず一瞬の懐想のあと 爽快に「ええ、元気です。」と 受話器に言葉を交わす 気がつけば時間と近況が 無制限に「あら、そうなの。」と ファッションみたいに一変してゆく かきたてるような目先の刺激 夢想し多感だった頃の共通点に 終りを告げる どうにも面倒な気分にひきずられ 薄情ぽく「じゃあ、またね。」と よそよそしく乗り移れない こんなにも私は、情の熱い 性質だったかしらと考えます 健気に思ってもみます そのまま戯いなく探りあう見栄や 動かぬ心に「まあ、本当。」と やはり、片耳をかしてしまう 退化した翼を拡がるだけ 拡げ『しかたがないわ。』と 胸の中に聴く 数学的に弾力を失った とぎれがちな会話から 溜息が誇大に響いて来る とりあえず、もうこれで 気分に揺れ動く呼吸を安らげ 理想的から不適応に進行した 恋人よ 「さようなら」 |
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