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−第13回(昭和56年度)− |
夜更のしじまににじむオレンヂ色の公園の灯り かすかに揺れている小さなブランコ ついさっきまでそこに腰掛けていた人の孤独をまだ乗せたままで………… とぼとぼとした歩きぶりで通り過ぎようとしたのに こわれそうな心がふっと呼びとめられる ほの明るい公園はそんなやさしみの表情をしていた 暗闇からの大きな手が手まねきしている渕にむいたままで ネジの止ってしまった心に ふるぼけたブランコがなつかしい ガスライターのあたたか色が闇からの手につかまりそうな心をかすかに救う ゆっくり揺れるブランコ そのたゆたいに身をゆだねているとき母に抱かれた幼い日の安らぎの中に居た あたたかくやわらかな乳房の鼓動…… 流れくる夜の風にもすぐ溶けてしまうはかない安らぎ―つかの間の錯覚― 煙草の灰と一緒に病んでいた心がぽとりと落ちてくだけた― やっといつもの顔をとり戻してその先のさざめきの中へと歩いて行った 自分の上に残された想いの跡形を濯ぎながら疲れぎみのブランコはため息まじりに明日への身仕度をはじめる 朝日に髪を光らせながら駆けてくる幼い者へのメルヘン配達人として |
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