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−第16回(昭和59年度)− |
温もりのない指で 彼女は私の瞼を開き 鈍色の液体を点眼した 薄暗い部屋で黙ってわたしは 革張りの椅子に腰かけている 扉の向こうを低い跫音と 乾いた咳が遠ざかり 緩やかに冷たい視界が融けはじめる 細かく罅割れた褐色の壁面に 淡い顔料の残る廃墟 毀れた彫像のある広場に 埃っぽい風が起こり 轍のつづく街道に転がっている 乾いた山羊の糞をたどれば 破れた幌の舞う兵にゆきつく 尖った島影の鋭利な海は 厭世的な古い楽譜を 色褪せた眸に転記している 或いは波という事象に於いて |
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