岡山市民の文芸
現代詩 −第20回(昭和63年度)−


石原 和美


目をとじて


いくら探しても
なんにもなかった


体の中に 休まず
血が流れているというのは
ほんとうだろうか


うすぐもりの空の下
どうやらあのあたりに
海があるらしい


波の音が
きこえてくればいい


耳を澄ますと
海は消えて
ただ 呼吸だけが残る


私の子ども 私の仕事……私の日常



心の海から
ひとつ またひとつと
連れ出していった


目をあけると


整理もできない棚のように
私の回りは
ものでいっぱい


目をとじるとあふれだしていた
あの海 波のうねり


そんなものがあったことを
ふと
思いだした
今 またひとつ年をとって 夏



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