![]() |
![]() |
![]() |
−第35回(平成15年度)− |
突然 溢れるように 綿の実が開いた 細い茎の上に ゆっくりと 立ち上がって来るものよ その真白い灯火に 君と私の遠い影が 映し出される 出征地から届いたのが 綿の花のオシバだった 祈りは どこへ行ったのだろう 空が燃えた日も 大地が裂けた日も 人を恋うという魂のふるえが 漸く私を生かしていた ひとつの浄化へと 時は進み 終戦という文字を包み込み
今 この綿の木に 寄り添うように 君の目がある 綿の実に 君の呼吸がある 私は 記憶の糸を吐き続ける蚕蛾になった あとから あとから 思いは 降り続けた 初秋の陽射しを浴びて 繭になったばかりの実が光る 敬虔に白く光る ただ黙って 並んで 見ている人がいる |
|
|
短歌/俳句/川柳/現代詩/随筆/トップ |
![]() |